1 桃を被った桃太郎

11/35
前へ
/39ページ
次へ
村の若い子から聞いた模様を、ありったけの想いを込めて刺繍したハチマキ。 昭治さんは桃のようだと笑っていたけれど。 「・・・本当。こうしてみると桃みたい」 わたしの刺繍した模様の下には、血塗られた昭治さんの指の跡。 それが桃の葉のようにも見えてしまう。 「・・・昭治さんっ」 ハチマキを握り締めて、胸に抱きしめる。 昭治さんが深い眠りについてから、初めて零した涙だった。 太郎がいつしか『桃太郎』とみんなに呼ばれるようになって、少しずつではあるけれど、外にも出るようになった。 「モーモーちゃん、あーそーびーまーしょ」 「はぁい、ちょっとまっててねえ」 お友達の沙耶ちゃん達に誘われて、いそいそと何やら支度をする桃太郎。 彼が手にしたものを見て、腰が抜けそうなほど驚いた。 「た、太郎。それをどこから!?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加