1 桃を被った桃太郎

4/35
前へ
/39ページ
次へ
「まあ、ありがとう。嬉しいわ」 昭治さんが傍にいなくても、悲しみの底に沈んだままで無かったのは、この可愛らしい桃の子のお陰だった。 「ねえ、太郎や。お外で遊んできていいのよ?」 いつもわたしの周りから離れず、ひとりでは外に行かない太郎。 「・・・お外、こあい」 悲しそうに俯く太郎に、胸が痛んだ。 『昭ちゃんとこに、桃の化け物がいる』 村人がそう噂しているのは、わたしの耳にも入ってきていた。 その度に、 『馬鹿言ってんじゃないよ!あの子は優しくて可愛い子なんですからね!』 『時子婆さんが怒ったぞー』 村人と言い合うはめになっていた。 昔からこの村に住むわたしたち夫婦は、ちょっとやそっとじゃみんなの信頼を失う事は無い。 だからこそ、気味悪がってはいても、村の中に住まわせてくれるのだから。 でも。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加