欠落

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 食堂はあたたかい朝食の匂いに満ちていた。  炊きたてのご飯。会わせ味噌の独特の香り。鼻腔をくすぐる秋刀魚の香ばしさ。  まったく理想的ともいえる朝食だ。  見ると、おそらくはチーズを巻き込んだだし巻き玉子に青々としたサラダもある。  すでに席についてるのは、傑と崎山さん。  最年少と最年長、一番偉そうなのと一番控え目な人。なんとも不思議な組み合わせだが、意外に違和感はない。 「やっぱり魔力の安定感が違うわね。十四歳で選ばれるわけよね」 「……南雲じゃ普通のことだ。六年待ってたら二十歳超えるからね」  すでに二十歳超えてる崎山さんに対する言葉じゃないだろ……。  とは思ったが、さすが最年長は違う。 「そうよね。お姉さんも早かったものね。私、取り残されちゃったのよね」  気にしてないはずはない。笑い飛ばせるほど達観した台詞でもない。  でも同時に浮かんだ微笑みは本物。  少しこの人を甘く見てただろうか……?  傑がどう感じたのかは分からない。ただ持ってた茶碗を置いて、視線を上げる。 「なんで分からないの? 自分で自分を一番過小評価してる」 「…………?!」  朝には相応しくない、だが傑にしては真摯な言葉。 「あんたの力が一番安定してるんだ。そこの考えナシとは違う」  近づく俺に気づいてたのだろう。傑が箸で指しながらのたまう。  俺をだしに使うのはいただけないが、どうやらまだ言いたいことがあるように見える。 「六年前、“結いの儀”を終えた姉さんがなんて言ったか教えてあげるよ」  ── なんで、聖美が選ばれてなかったのよ! 選定員の目はどこまで節穴なのっ!  選定員のひとりでもあった父親にぶつけるにはあまりな台詞だな。  直接は知らんが、優等生だって話だからな。  が、ゆえに傑の姉さんの本当の気持ちが分かる。 「……姉さんが、あんたを一番高く評価してるんだ……」  そう弱々しく呟いた傑は年相応に見えた。俺に対してもこうなら、もうちょっとやりやすいんだがな。
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