欠落

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「南雲の坊っちゃんよ。言いたいことは分かるが、らしくねえな。  確かに崎山さんは自分を過小評価してるかもな。けど、それだけじゃねえだろ?」  どうやら今の傑は洞察力も若干低下してるらしい。傑の言葉を聞いてた崎山さんの表情の奥が見えてない。  朝食の並べられたテーブルの脇に立つ俺を無言で睨み付けるが、そこにかけられる静かな声……。 「ありがとう、傑くん」  ……ただ一言。  そう発した崎山さんの瞳の輝きは、決しておっとりしてるだけのものじゃない。  先に行ってしまった親友に、何としても追いついてみせる!  それはあるいは、俺なんかよりよほど純粋な強い意志かもしれない。  完全に甘く見てたな。選ばれるにはそれだけの理由がある。  傑もそれを見止めたのだろう。 「フンっ、僕の足手まといにならなければそれでいいんだ……」  ややばつが悪そうに呟き、醤油に浸した海苔でご飯を巻いた傑の姿は、十四才の少年のものだった……。
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