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この街には魔術師がいる。
その役割はひとつ……。
魔喰(マクイ)の排斥。
かくいう俺もその魔術師のひとりだ。
で、今も魔喰を追ってるところなわけだ。気配を消して、闇に同化してる。
『起きてる? 優斗(ユウト)。そっちに追い込んだからね』
と、俺の頭の中に響いたのは今回の狩りのパートナーの声だ。
ようやっと俺の出番らしい。
(ああ、危うく眠りそうになるほど、誰かさんに待たされたけどな)
そう念話を返し、静かに目を開ける。
誰かさんて誰よ! と不機嫌になってるのを無視して、意識の網を広げた。
「……?? なに……?!」
俺の呟きを予測してたのか、再び念話が届く。
『あ、それとごめんねぇ。追ってるとき、五体に分裂しちゃった……』
エヘヘ……なんて照れ笑いしている様が目に浮かぶ。
少しばかり可愛いからといって、それで許されるとでも思ってんだろうか。
(ちっ、フォロー任せたぞ、久留実(クルミ))
そう言い捨て、右腕に魔力を流す。
文句は全て終わってからだ。
正直五体相手にするには、今の俺らでは少々荷が重い。
だが、泣き言も後だ。
交戦が近づくにつれ、魔力が満ちるにつれ、俺の心は冷えていく。
余分な感情は沈んでいき、一個の氷の獣になる……。
先頭のヤツの反応が一番強いな。間違いなく本体。
だから敢えてそいつはスルーする。
漆黒のカモシカによく似た獣が疾駆してゆく。金色に輝く目が、いわば魔喰の証。
四体目が通り過ぎた瞬間、魔力を循環させた。血の巡りは魔力の流れ……。
練り上げた魔力が俺の右腕で魔術に変換する。
空間が凍てつき、凝縮して一個の弾丸と成る。
カモシカの魔喰が俺に気付いたのと、氷の弾丸が脳髄を貫いたのはほぼ同時。
致命傷なのは当然だ。不意討ちだからな。
だからその確認もせず、俺は次なる標的に向かう。
魔力の練りも精度も気にせず、氷の礫をばら蒔き目眩ましにして、五体目の側面に回る。
通常なら俺にどうこうできる速度じゃないが、今は違う。
突然倒れた四体目が進路を塞ぎ、左側はビルの壁……。
急制動のち、右へ跳躍。ヤツの生態からこの選択が一番可能性が高いわけだ。
俺はそれに動きを合わせればいいだけ……。
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