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─────…………。
うまくいったのはそこまでだった……。
戦い始まって数分後、俺は冷たい地面に倒れ伏していた。
「優斗……ごめんなさい。私のせいで……」
ったく、なんて顔してんだよ。木の実を取られたリスみたいに泣きそうになってるのを見て、思わず笑いが込み上げ──
「────っ!!」
肺の急激な運動が胸部に言葉にならない激痛を引き起こす。
やっちまったな……。あばらの何本かは折れてるかもしれない。
ま、この程度で済んだのは僥幸か。
俺の胸元に千切れた折り紙が張り付いてる。久留実が喚び出した使い魔の成れの果て……。
俺の身代わりになってくれたわけだ。
「久留実ちゃんが責任感じる必要はどこにもないよ。優しさの無駄遣いだからね。
まったく、お前の考えなしにも程がある。久留実ちゃんにまで何かあったら、私が許さないところだ。
そもそも、奇襲するなら本体を狙うべきだろうに。
だいいちだな────」
聞いてる方がイライラするような声の主は前方から現れた。
俺と久留実のひとつ年上の桐柄昭俊(キリエ アキトシ)だ。一応幼なじみではあるのだが、どうも俺とは反りが合わない。
後に続く台詞だってどうせ俺をこきおろすだけのものなのは分かりきってる。
「昭俊さん……、でも私がもっとちゃんと魔喰を誘導できてたら……」
それにな……、久留実の言葉の方が俺には痛い。
昭俊なんぞに言われるまでもなく、こいつぁ俺自身の責任だ。
戦術の選択ミス。
彼我の戦力差の見極めの甘さ。
俺の力不足……。
そして何より……それを認められなかった愚かなプライド……。
「……おまえは何もミスってない」
痛みをおして起き上がると、ぶっきらぼうにそれだけ言い捨てる。
もう少し優しい言葉でもかけてやるべきなのだろうが、そんな必要もないような気もする。
少なくとも、俺が久留実を責めてなどいないことは伝わってるはずだからな。そんだけ、こいつとは一緒に育ってきたんだ。
再び右手に魔力を流し、微かな月明かりを反射するアスファルトに足を進める。
だが、それを遮る者があった。
「今度こそ死ぬよ、お前。それに今夜はお前の出番はもうない」
昭俊の野郎の言葉に合わせるように、地面が揺れ、戦いの終わりを告げる爆音が聞こえた……。
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