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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そのときの爆音は、俺らの先輩がカモシカの魔喰を排除したときのものだった。
その先輩に連絡をつけたのは、もちろん昭俊……。
敵わぬ相手に対しての善後策としては最良策なのだろうが……、
「ちっ、俺だって魔導結印さえあれば、あんなやつくらいどうってことないんだ」
──魔導結印ってのは、言ってみれば一人前の魔術師の証だ。
ここ、六角市は魔素(マナ)が大量に集まる土地に作られたらしい。ま、その辺の詳しい経緯なんかどうでもいいんだ。
俺にとって重要なのは、この土地の魔素を取り込むには結印が必要だってことだけ。
土地との契約を交わさなければならないわけだ。
土地の魔素を扱える魔術師の力は正直桁が違う。状況によれば軍隊ともやりあえるレベルだ。
だからな、俺のさっきの呟きも負け惜しみなのは間違いないが、真実でもある。
「……いつまでも寝てるわけにいかないってのに」
痛みを無視してベッドで体を起こすと、サポーターの兄貴分みたいなコルセットに被われた上半身が目に映る。
装着しててこの痛みってのは、まだまだ安静が必要らしい。
それが分かっても、こんなとこで休んでなんていられないんだ。
ベッドの横に畳まれてた服と格闘していると、病室のドアが開く。
「っ?! ちょっと、何してるの?
まだ動ける体じゃないのに……」
「決まってんだろ。次のターゲット探しに行くんだよっ!」
そう。
結印を得るに相応しいってことを証明しなければならない。
六年に一度しか行われない“結いの儀”。
今はその候補者の選定期間中……。
昨日までは頭ひとつ抜けてる自信はあったが、昨夜のミスでどう判断されるか分からない。
「大丈夫だって。
優斗はちゃんと選ばれたのよ。
だから無理しないでよ……」
「選……ば……れた?」
その言葉が脳に届くのに、いくばくかの時間が必要だった……。
俺が落ち着いたことで、必死で腕に取りついていた久留実も力を緩める。
だから、久留実の腕が微かに震えていることにも気付けた。
だが俺は、その震えの本当の理由になど思い至らず、一番近くにあったはずの真実に気付きもしなかった……。
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