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「ちょっと待ってよ~。優斗、早いってば……」
「体力のなさは相変わらずか。なんでおまえまで選ばれたんだろうな」
担いでた大型リュックと肩掛けバッグ二つを雪の上に下ろし、後方に目をやる。
現在、俺と久留実は雪山登山の最中だ。
説明する必要もないだろうが、“結いの儀”の場に向かう途中なわけだ。
なのだが……、骨折復帰直後の俺より遅れまくってるのはどういうわけだ?
一応言っとくが、久留実の荷物も全部俺が持ってる。こいつが持ってるのは小さなサイドポーチだけ。
ちなみに簡易なものだが、俺の胸にはまだサポーターがついてる。
「そんなの決まってるじゃない。私以外に誰が優斗の面倒みるっていうのよ」
「どっちがだ。おまえに面倒かけられた覚えはあるが、面倒みてもらった記憶はないぞ」
息を整えながら言い切る久留実に、そう憎まれ口を叩いておく。
いつも通りに膨らませる頬が、寒さのせいもあり真っ赤になってる。
「ちょっと! 何笑ってんのよ」
「いや、なんでもない……」
まさか胡桃を頬に溜めたリスを連想したとも言えず、ごまかすと荷物を担ぎ直した。まったく、こいつといると退屈ってやつが裸足で逃げてくな。
それに……、
俺は久留実にみつからないよう、ダウンジャケットの内側から小さなお守りを引っ張り出した。
その中には折り紙の破片が入っている。俺の命を救った久留実の使い魔だった紙……。
一生、こいつに言うつもりはないが、俺が魔導結印を欲する想いがまたひとつでかくなっていた……。
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