第1章

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 産まれた…の…。  産まれたばかりのコメダカは呟いた。  産まれたばかりのメダカは糸くずのように細く、水面に表面張力で張り付いているかのようだった。  白っぽい糸くずのように見えるが糸くずではない。  キチンと生きている。  ただ、産まれたばかりは若干、ぼーっとしてしまうだけだ。  メダカが誕生に至るまでには、危険がいっぱいだ。  産まれた安堵感でぼーっとしてしまうことを許して欲しい。  メダカはヤゴ、タガメ、ゲンゴロウ、タイコウチ、アメリカザリガニにブラックバス、サギなど、昆虫やら外来魚やら鳥やらに狙われまくっている。  油断ならない外敵が数々いるだけにメダカとして生きていくのも大変なのだ。    しかも、産まれるまでに最大の敵となるのが親メダカという禍々しいオマケ付きなのだ。  血なまぐさい死線をくぐって産まれてきたのだ。  誕生の喜びと脱力にしばしぼーっとなることを許して欲しい。    このとき、糸くずと間違えて捨てるのは勘弁してくれ。  専用の水槽で同じ時期に産まれた卵達と、しばらく同じ時を過ごし、ようやく産まれてきた。  透明のぷちぷちした卵で産まれてきて、小さい小さいと自分では思っているが、マグロと同じくらいの大きさがあるという驚愕の真実は、メダカ内ではあまり知られていない。  だってメダカは淡水魚だもの。  海になんていかないもの。  川にすらいかないもの。  我ら一生水槽の中っ、いぇ~い♪  卵の中で、頭と尻尾が出来て、目が出来て、血管が出来て熱い血潮かどうかは知らんがメダカ平均体温の血が流れて、心臓ができる。  時々、胸のひれを動かしたり、卵の中をぐるんと一周してみたり、うずうずし始めたらじきに産まれるのさ。  バーンと卵から飛び出すのさ。  しかし、産まれたては世界の大きさに戸惑って呆然とするのさ。  しばし、ぼーっと水面に浮かぶ。  糸くずのように。  …間違えて、捨てんなよ。     
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