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(しまった)
読んでいた本から目を離した途端、黒曜刃(コクヨウ ヤイバ)は自分を叱責していた。
(バカ。夢中になっていたら、あの人が来ても気付けないだろう)
しかし、次の瞬間には続きが読みたくて、うずうずして来る。
中盤の山場、良い所なのだ。
存在をほのめかされていた新たな登場人物に、新たな謎。これから大きく話が動き出す寸前の緊張感が、文面に溢れている。
もう、手に汗握るといった所なのだ。
少し迷い、ああもういいや、別に約束をした訳じゃないんだしと、刃は逡巡する気持ちを吹っ切る。
しかし今日は日曜日だけに人の数も多く、小さな子供を連れた夫婦や小学生の姿が目に付く。
早い話が、何時もより騒がしい。
かしまびすしい嬌声を上げて、通路を走るチビ。
幼児コーナーの絵本を振り回し、破れようが汚れようがお構い無しだ。
親は何をしているのだと目線を上げれば、井戸端会議に夢中だったりする。
再び本に視線を戻すが、一度気になった嬌声は耳に付いて離れない。
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