第16話 挿話6「保科睦月と僕」

2/6
前へ
/45ページ
次へ
 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中学の文芸部には、奇妙な性癖や趣味の人間たちが集まっている。  そんな困った部活に、僕、榊祐介は所属している。二年生という真ん中の学年で、文芸部では中堅どころ。そして厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でやっていることは、備品のパソコンでネットを巡回して、役にも立たないようなネットスラングを集めて、悦にひたることである。  そういった、どうしようもない人間ばかりの文芸部にも、まともな人が一人だけいます。怪獣大行進の中に紛れ込んだ、一人の清らかな少女。それが、文芸部の先輩の三年生、雪村楓さん。眼鏡で三つ編み。見た感じのままの文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ってきたという純粋培養の美少女さん。そんな彼女は、僕の意中の人なのです。  僕は、そういった先輩との蜜月を妄想しながら、部室の奥で、壁に背を向けてパソコンをいじっています。だって、そういった配置にしなければ、どんなサイトを巡回しているのか、みんなにモロバレですからね。 「ねえ、ユウスケ」  声をかけられて、僕は顔を上げた。いつもは入り口近くにいる保科睦月が、僕の許までやって来ていた。服装は、いつもの水着姿だ。その整った肢体が、目に入る。 「何、睦月?」  僕は、笑顔で声をかける。  睦月は、子供の頃から、野山で一緒に遊んだ友人だ。しかし、中学生になった頃を境に、僕との会話がほとんどなくなった。その代わりに、部室で競泳水着やスクール水姿で過ごすといった奇行を始めた。それも、なぜか僕が自分の席に着くと、真正面の場所に座って、こちらをじっと眺めている。僕は、どうすればよいのか、途方にくれる。まあ、目の保養だから、楽しませてもらっているのだけど。  そんな口数の少なくなった睦月が、僕に話しかけてきた。これは由々しき事態だ。何か重大な話かもしれない。僕は身構えて、睦月に相対した。 「新しい水着を買いに行くから、一緒に付いてきて欲しいの」
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加