第16話 挿話6「保科睦月と僕」

3/6
前へ
/45ページ
次へ
 来た! 水着フラグ来た! 僕は、思わず、椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。部室中の目が、僕に集まる。えっ、いや、何もやましいことはないですよ。ただ、幼馴染みの同級生のお買い物に、付き合って欲しいと言われたので、荷物運びとして馳せ参じるだけですよ。 「いつ行くの?」  僕は、声のトーンを落として尋ねる。部室の全員が、僕から視線を外した。しかし、注目を浴びている気配がする。 「明日だけど、いい?」  睦月は、僕の耳に顔を寄せて、ささやいてくる。 「明日の放課後だね。ちょっと待って、予定を確認するから」  僕はスケジュール帳を出して、ページを開く。特に予定はない。清々しいまでに真っ白だ。そのページを睦月に見せないようにして、難しい顔をしたあと笑みを浮かべる。 「大丈夫だよ。明日は、たまたま空いている。買い物に付き合えるよ」  睦月は、嬉しそうな顔をした。僕は、よいことをした気分になり、席に座った。  新しい水着か。どんな水着を、睦月は買おうとしているのかな。僕は、あれやこれやと想像をふくらませる。ビキニかもしれないぞ。もっと過激な水着かもしれないぞ。そう思いながら、その日は、にやにやとしながら部室で過ごした。  翌日、授業が終わったあと、僕は睦月と教室を出た。今日は部室に寄らず、そのまま下校する。そして睦月と一緒に、「あぶない水着」を買いに行くのだ。  バスに乗り、繁華街を目指す。車内では特に会話もなく、僕と睦月は隣に座り続ける。いつもは、水着姿の睦月を見ているので、制服を着ていると違和感がある。せっかく隣に座っているのだから、水着姿の方がよいのにと、不埒なことを考える。でもそれでは、公然わいせつ罪だ。部室の中だから許されるのだ。あそこは室内だしね。プライベート空間だもの。だから、水着で過ごしていても、無問題ですよ。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加