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僕は、満子部長を制して、楓先輩を見る。よかった気付かれていないようだ。満子部長はこうやって、聞こえるか聞こえないかぎりぎりのところで、僕をいたぶって楽しんだりする。
「分かりました。これも、文芸部の活動ですからね」
「任せたぞ。締め切りは三日後」
「早いですね」
「それを、親のアカウントを使って、キンドルで売る。親の許可は得てある」
さすがです。僕は、いきなり、与えられた締め切りにくらくらしながら、満子部長の許を離れることにしました。
「大丈夫?」
顔を上げると、同級生の「鈴村真」くんが、僕の許にやって来ました。華奢な体で、女の子のような顔立ち。一つ一つのポーズや仕草も、可憐な乙女のような鈴村くん。僕は、彼が自宅で女装を楽しんでいることを知っている。
……もう、先輩じゃないから、敬語はいいよね! 同級生からは、普通に書くよ! というわけで、リミッター解除だ~~!
「ああ、鈴村くん、大丈夫だよ」
「うん、よかった」
鈴村くんは、嬉しそうに目を細めて、軽く握った手を顔の近くに持ってきた。か、可愛いじゃないか。僕はそんなことを思う。いやいや、危ない道に引きずり込まれては駄目だ。鈴村くんは、男の子だ。そりゃあ、男の娘には禁断の味があるという。でも、僕には正妻の楓先輩がいる。鈴村くんには、涙を呑んでもらうしかないだろう。
「鈴村くん」
「何、サカキくん」
嬉しそうに、一歩近付いてきた。鈴村くんは、体を少し傾けて、僕のことを見上げる。男の子にしては長い髪が、眉の上でさらさらと流れる。ああ、禁断の恋に落ちそうだ。僕は、理性を失う前に、そそくさと鈴村くんの前を離れた。
「ふうっ」
僕は自分の席に着く。パソコンのモニターの前が、僕の特等席だ。モニターは、その背面を入り口に向けている。そのため、誰かが突然部室に入って来ても、何を閲覧しているのか分からない。ただ、その席に座ると、あるものが目に入るんだよね。入り口近くにいるのは、水着姿で部室に生息している幼馴染みの二年生、「保科睦月」だ。
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