240人が本棚に入れています
本棚に追加
手荒れも目立つが、それが亡くなった両親の代わりにガルンを立派に育ててきた証しでもある。
母は身体が弱く、ガルンを産んだ後に病死し、父は冬の荒れた海で難破した貴族の船を助けに行って帰らぬ人となった。
それ以降、姉は母のように、時に父のようにガルンを育ててきたのだ。
それを知っているからこそ、ガルンは姉に何かしてあげたかった。
「姉ちゃん、これ日頃のお礼」
そう言って懐から貝殻を取り出す。
「黒蝶貝? 珍しいわね」
姉はそれを受けとると全体をマジマジと見てから中を開ける。
中には黄色い半透明なクリームが入っていた。
「行商人が持ってきた蜜蝋から作ったハンドクリームを少し分けて貰ったんだ。姉ちゃんは水仕事で何時も手荒れが酷いから、痛みが酷い時はそれを塗るといいってさ」
ニカッと笑う弟を見て、姉は嬉しそうに顔を綻ばした。
「ありがとうガルン! 大切に使わせて貰うね。なら、今日はお礼に料理にも力を入れちゃおうかな!」
腕を捲ると魚を一匹取り上げる。
「新鮮なうちにこれはウハーにしてしまいましょう! 他にもガルンが好きなピロシキも焼いちゃうからね」
「やった!」
そう言うとガルンは拳を握るとガッツポーズを取った。
最初のコメントを投稿しよう!