247人が本棚に入れています
本棚に追加
火の始末を間違えれば火事になるのは道理だが、同時に何軒も火事になる筈もない。
そして、遠吠えのように聞こえた声が、人の悲鳴だとようやく気がつく。
「姉ちゃん? 何が起こっているの」
窓の外に揺らめいて見える炎に、ガルンは恐怖を感じていた。
もの心ついてからこのような光景を見た事が無い。
炎が溢れ出した隣の家から、炎に包まれた人の姿が飛び出してきた。
炎に照らされたそれは、不気味な影絵のように奇っ怪な声を上げながらのたうち回っている。
異変にいち早く気がついた姉は、素早く奥の部屋に向かうとオウム返しに返ってきた。
手を引かれて二階に素早く上がる。
「いいガルン、これを持ってベットの下に隠れなさい」
姉から渡されたのは一振りの短刀だった。
亡くなった父が生前陸の狩りで使っていた形見である。
ミスリル製で黒い鷹のマークが施された特注の品。
以前、遊びで使って以来一度も触らせて貰えなかった物だ。
ガルンは酷く不吉なイメージを感じたが、姉の真摯な眼差しを受けて仕方なくベットの下に隠れる事にした。
「何があっても、絶対に出て来ては駄目だからね?」
姉の諭すような顔は酷く悲しそうに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!