プロローグ

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 グラルカンタ公国の辺境北方軍・第二連隊長カルレイン・バロックは悪夢に苛まれていた。  辺境ディスティニとの国境砦を守護する事になって一週間。  与えられた一個連隊の兵力に胡座を掻いていないと言えば嘘になる。  侮っていたと言うべきなのだろう。  砦に攻め入って来た相手はたった一人なのだから。 「なんだアレは……?」  眼下に拡がる戦火を理解できない。  砦の城壁、城門は魔道士三十人による多重結界と呪印障壁により硬く閉ざされていた。  それが粉々に打ち砕かれている。  それも物理攻撃で。  辺境に出したニ個中隊とも連絡が取れない。  砦内に配置した鎧で身を固めた兵士達が、あっさりと次々と倒れていく。  問題は誰も斬られてはいない事だ。  炎にたかる羽虫の様に突っ込み。  焦がされもせずに、その周辺でバタバタ倒れる様は喜劇のようだ。  悠々と正面通路を歩く黒い幽鬼には見覚えがある。  全身黒ずくめの異様な出で立ちに。  頭部のヘッドギアも黒。  ヘッドギアから覗く逆立った髪も黒。  その身を包むボディアーマーも黒。  片手持ちしている異様な邪気を放っている大剣も黒だ。  体のあちこちから吹きこぼれている“炎”も黒。 全てが黒い。  一番不自然なのは鎧の節々、剣から溢れ出ている黒い焔だ。
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