第十三章 忌み子の姫 終詞

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「くだらんと言ったぞ! 数百発で駄目ならば数千発。それでも無理ならば数万発、拳を打ち込むまでだ」  鈍い音が響き渡る。  拳が潰れ続ける不愉快な不快音に混じって、雨音の様なものが微かに混ざり出した。 「むう?!」  音しか聞こえないクレゼントは、ようやくそれが何の音か理解した。  クラインの壷にヒビが入り始めた事に。  唖然とひび割れる音を聞いていたクレゼントは、直ぐに我に返った。  印とマントラを唱える。  その身体が綺麗に吹き飛んだ。  ゼロに気をとられ過ぎていて、ラナンキュラスの存在を失念していたのだ。 「情けないが牽制はするぞ!」  ラナンキュラスは死霊をのらりくらりと躱しながら叫ぶ。  ゼロは微笑すると拳を硝子に叩き付けた。  氷山が割れる様な甲高い音と共に亀裂が入る。 「はあぁ!!」  ゼロは裂帛の気合いを乗せて、拳を振り上げ――た所で静止した。  不思議そうに、ゆっくりと左胸に生えている物を眺める。  楔が生えていた。
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