第十三章 忌み子の姫 終詞

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「待て」  と、呟いたのはガルンだ。   ゼロに向かって無造作に荷物のようにラナンキュラスアを投げ飛ばす。  片手だ。  ゼロは姫を片腕だけで支えると、空いた腕でラナンキュラスを受け止める。  どちらも有り得ない腕力だ。 「邪魔だ。連れていけ」  ガルンの言葉にゼロは鼻で笑って答えると、二人を抱えて走り出した。  クレゼントは刺さった楔を、緩慢な動きで抜こうとしている最中だ。  纏わり付く蝶を苛々しく振り払っている。  その隙に彼女達が抜け出すのは、至極簡単な事であった。  回廊に飛び込むと、濛々と溢れる黒煙に混ざって、人肉を焼く悪臭が鼻につく。  煙りは通路に空いた大穴から上がっていた。 「地獄の釜か……」  ゼロの言葉は、地下室に拡がる鎮魂の炎を見つめながら口からこぼれる。  墓穴らしき場所は、溶解した火口のように赤光した渦のように流動しているようにしか見えなかった。 「きっさまぁああ!!」  クレゼントは何とか楔を抜き放つとガルンを睨み付ける。  ガルンは蔑むように、よろめく不死者を見つめた。
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