プロローグ

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 砦内部で起こっている悪夢のような惨状は、沈黙によって包まれていた。  黒い戦鬼は悠々と歩を進めるが、周りを囲む兵士は誰一人動けない。  何故ならば、誰もガルンに斬り掛かれないからだ。  近づく人間はバタバタと倒れ、唯一近づけた人間は、ガルンの一振りで斬り伏せられ……火だるまになる。  ガルンの剣から出ている黒い焔に注目が集中するが、真に恐ろしいのは兵士を一撃で葬り去る剣捌きの方だ。  これでは、近付く者は無意味に死にに行くようなものだ。  誰しも多々良を踏む。  既に床下に転がる人間の数は五十を超える。  遠距離部隊から放たれる矢と魔術は、ガルンの体から出る妙な焔によって全て遮られていた。 「くそ! 何故、あいつがここに?!」  大隊長の一人、サワード・グラハムは震える拳を握りしめてそう呟いた。  ガルン・ヴァーミリオン。黒い戦鬼を知る、この砦の最後の不幸な一人は、運悪くこの時間の守備長を任されていた。 「改魔騎士、精神防衛術を使える司祭(プリースト)魔術師(ソーサラー)を呼べ! 直ちに全員に最高位の精神防御魔術をかけさせろ! 鼓舞の効果や戦意高揚の歌が使える聖歌魔術師(ソング・プレイヤー)もいたら呼べ!」  グラハムの声が静まり帰った大広間に響く。  その声にガルンは不敵な笑みを浮かべた。 「ほーう。俺の力を知っているのか? これは珍しいな」
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