プロローグ

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 そう言うと足を止める。  まるで相手の出方を待つかの様に。  グラハムの近くにいる兵士が恐る恐る声をかける。 「大隊長。あれが何か知っているのですか?」  黒い剣士から出ている黒い焔を指差す。  グラハムは顔を引き攣らせながら笑みを浮かべた。 「アレは何だと思う?」  質問に質問で返され困惑する兵士をよそに、ぼそぼそと言葉を続ける。 「あれは魔法を帯びた鎧や剣でも、炎術士の炎でもない……。アレは……」 「アレは……?」  兵士が生唾を飲み込む。  グラハムの顔から引き攣った笑みは消えていた。  死相が張り付いている。 「アレはただの『殺意』だ」  それがグラハムの放った最後の言葉だった。  砦はそれから僅か一刻で陥落した。
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