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「世間さまの感想通り、すごくリアリティある作品だったよね。いじめの内容も心理描写も、現代っぽくてさ」
「香苗って、ああいうの好きだったっけ? なんていうか、青春っていうの」
「確かに推理ものの方が好きなのは変わらないけど……惹かれちゃったしね」
笑顔で言う彼女に、藤川は苦笑した。
探偵小説などミステリー系統が好きな堂本でも、今回の恋愛小説はお気に召したみたいだ、それほど小野寺蒼の書き方が素晴らしいのだろう。
その素晴らしい作家の二作品目を期待しているものは、おそらく読者のほとんどだろう。
才能がある、と一言で言ってしまえばそれまでなのだが、彼も彼で努力はしているはずだ。
担当となった藤川は、その影の努力を見た上で支え、加えて二作品目についての情報をいの一番に知ることができる立場にいる。
堂本に羨ましがられるのも納得がいく。
逆の立場なら、自分も羨んでいたはずだ。
「今日は顔合わせなんだし、ちょっとメイク変えてみたら?」
「でも気合い入ってるみたいで、私らしくないじゃない。いつも通りでいいよ」
「あぁはいはい、化粧なんてしなくても綺はもとが良いですからね。まったく、美人は得だよね」
「美人なんかじゃ」
「否定したら嫌味と受け取りひっぱたく」
否定の言葉を口にしようとした藤川の言葉を遮り、堂本はキラリと瞳を光らせて右手を構えて見せた。
もう、と息のように漏らしながら藤川は言葉を発しないように口を噤んで微笑んだ。
「よろしい」
「調子いいんだから」
「ね、今夜メール待ってるからね」
「どんなイケメンだったか教えろって?」
「さすが私の友達! 分かってるね」
「分かった分かった、教えるから」
「やった!」
目に見て笑顔になり、小さく両手でガッツポーズした堂本の姿に、藤川は笑みを向けるものの、その心はどんどんと冷めていくのが自分でも分かった。
ああ、滑稽なことだ。
何がそんなに嬉しいのか、喜ぶ要素なのか、イケメンが好きというだけならどこぞのテレビ俳優でも見てればいいじゃないか。
ミーハーと罵りたくなるもののそれも面倒だし今後の自分のためも考えて、藤川は堂本に笑顔を向けたまま、仕事に戻るまで会話に花を咲かせていた。
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