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というのは、まあ先輩から聞いた話でしかない。
そんな私に、小野寺蒼を担当しろ、との名が下ったのは、今からつい三日前のこと。
あまりに急な話だし、それにまだまだ私は一人前とは言えない人間なのにも関わらず、上は私を担当に選んだ。
これはどういうことだろうか。
私が信頼されたのか、小野寺蒼が信頼されたのか、あるいは小野寺蒼が素晴らしい人間だから私を抜擢したのか。
素晴らしい人間ならば、もっと素晴らしい人選をすべきだと思うが、それは私の思い違いだろうか。
そんなことはないと思う。
私の成長のため、とか?
聞こえはいいが、それは私が現在足手まといだから、腕を磨いてこいという意味ではないのか。
お粗末な思考だ。
私が選ばれたのはきっとミスだ。
上から変更の話がおりてくるか、あるいは小野寺蒼が役立たずと報告するか。
はたまた、終わったあとに責任をすべて私に押しつけられるか、さてどれだろう。
うまくいったところで、結局上は私の力量とは判断せず、自分の人選力やら何やらかんやらと屁理屈をこね、自分の力を誇示するだろう。
私はそれを眺め、仕方ないと内心思いながら、そうですねと笑いかけるのだ。
現在。
私は約束の喫茶店へ向かってる途中だ。
その時、ふと書店が目にはいる。
当然と言うか、店頭には目立たせるための広告と共に、ずらりと初作『砂の中のガラス石』が並んでいる。
「(なんていうか……圧巻? いや違う。感嘆?)」
綺麗な表紙に、綺麗な帯。
『沢山の世界の中から、君だけを見つけた』というフレーズが帯に書かれていて、表紙は砂浜。
人は描かれていないのが、彼のこだわりだと聞いたことがある。
人を描くと、人物像はそこに固定されてしまう。
それをよく理解している作家だと感じた。
つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、十数メートル先に目的の喫茶店が見えた。
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