第一話『出会い』

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「とりあえず、やはり新人賞受賞おめでとうございます」 「はい、ありがとうございます」 笑って返す彼は、本当に穏やかな人間なのだろう。 「早速ですいません。次作のテーマとか内容とか、もう決まっていたりしますか?」 「うん。次はね、『家庭崩壊の中に見える愛』をテーマにしようと思うんだけど……どうかな? 変? もうそろそろ、動くつもりだったんだけど」 家庭崩壊。 物騒なワードのわりに、藤川は小野寺の考えを感じようとじっと見つめつつ、その言葉を反芻する。 家庭崩壊とは、色々な形がある。 それこそ、小野寺らしさを追求するための家庭崩壊のリアルとは何か、それを真剣に考えて考えて考え抜かなくてはならないだろう。 しかし彼はやると言っている。 藤川は少し悩んだ結果、 「わかりました。それでいきましょう」 と、彼を信じることにした。 「ありがとう、それじゃあ早速準備に入ろう」 嬉しそうに手を合わせた後、一口コーヒーに口をつける。 それを見て、自分も飲んでないや、と藤川もカフェオレの入っているカップの取っ手を持った。 「取材にでも?」 「うん、行くよ。明後日にここを発つ」 「就いていってもいいですか?」 「え?」 小野寺は予想外だったのか、ぱちんと瞬きを何度か繰り返した。 それに藤川も瞬きを返す。 そんなに意外な返答であっただろうか、と。 己としては、プロットの出来を一番に見たいのと、彼の製作過程をこの目で間近で見たい欲求から言ったのだが、迷惑だったのだろうか、と藤川は不安から眉を寄せる。 「ああいや、いいよ。いいんだけどね。かなりの間ここを離れることになるけど……君はそれでもいいの?」 「大丈夫ですよ。時折本社に戻らせていただきますけど、そちらでも私は仕事が可能です。基本、デスクワークが主ですしね」 「そう……なら、行こう。一緒に頑張ろうね、綺ちゃん」 「あ、綺ちゃん?」 さらりと呼ばれた下の名前に、違和感を隠せず藤川は瞠目する。 しかし目の前の男は、にこにこ顔をやめることはなく、自分が折れるしかないことを藤川に悟らせた。 「……よろしくお願いします、小野寺さん」
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