転落ディクレッシェンド

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♪  誰かに咎められたので長倉海人と他二人は演奏せずに止まった。しかし、我らがリーダー蒼野空は、仮に隕石級の妨害が飛んできても止まらなかっただろう。そういう人なのだ。そして、彼女はひとりでも十分に他人を惹きつけるような歌を歌えてしまうような人だった。  可哀想なのは、咎めた男の人の方だった。くたびれたスーツにどこか枯れた感じのほっそりとした顔。なんとなくどこかで見覚えのある人だ。  腹の底から歌唱する少女とそれを咎めた大人。正しいのは大人の方なのに、なんでか視線はその枯れた風の男の方に集まっていく。中には非難がましいものまであった。  流石に理不尽だと思ったので、海人はトントンと空の肩を叩いた。彼女の体は全身が楽器になったかのように震えていたが、仲間の呼びかけですぐさまに――しかし、どことなく不満そうに――演奏を止める。 「なによ! 無粋な横槍くらいで音楽を止めてたら、この先やっていけないわよ!」  振り向きざまにそんなことを言われた。が、このやり取りも慣れたもので。 「いや……、無粋どころか至極まっとうな意見だったと思うんですけどね」  至極まっとうな意見というのは、意外と言い出しにくいものだ。特に、空みたいな堂々とアホなことをしている人に対しては。  ごほんと、“無粋な横槍”を入れた男の人が咳払いをした。この癖、こちらの会話の区切りを待つかのようなタイミング。やはり、どこかで会ったようなきがする。 「あのね、君、ここで路上ライブ開いちゃいけないの知ってる?」 「くそ、政府のわんころがこんなところまで……!!」 「言いがかりだ!!」  言いがかりです。そして、このやりとりを見ていた通行人の学生集団がスマホを持ち出し始めた。アコースティックギター担当の尾田元がそれを目線だけで制する。  ただまぁ、スマホで録画しておきたいくらいに、笑えるような言い争いであることは確かだった。何しろ、海人達は「許可なくライブ開催をすることを禁止します」云々という看板のある前でやろうとしていたのだから。しかもこの看板、つい最近立てられたものだ。立てられた理由は……ご想像にお任せしよう。
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