第一章

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第一章

「痛っ!」 幾十個目の引っ越し段ボールを乱暴に開けた拍子に、爪を傷つけてしまった。薬指を口に含みながら、ため息をついているとチャイムが鳴った。 応える間もなく、二度目のピンポーン。 急ぎの用事だろうか。 「はい?」 ドアを開けると、藍色の作業服の若い男が立っていた。 「お忙しいところ恐れいります!お隣の外回り工事をさせていただいている、サンガーデンの田口と言いますが、、」 大きな声とともに、名刺とタオルが差し出された。 「御丁寧にありがとうございます。ウチもまだ工事中でお騒がせしてますので、お気遣いなく。」 ゆっくりドアを閉めようとすると、男は続けて社名入りのクリアファイルを差し出した。 「こちらは、当社がお隣のナカムラ様と、境界線を折半工事させていただいた場合のお見積もりでございます。ナカムラ様もぜひにとおっしゃっておりますのでいかがでしょうか。」 わたしはとっさに事情が飲み込めなかった。 境界線?折半?ナカムラさんて? 男を前に、しばらく沈黙が続いたのち、 ようやく以前に聞いた、ハウスメーカーの※説明を思い出した。
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