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「でも収入も良さそうだし」
「そうでもないわよ。雇われは福利厚生なしだし、労働時間も長くて休みはサラリーマンの半分」
「ボーナスとか?」
「あるわけないじゃん」
「そうなんですか?」
「そう。このハサミだって自分持ち」
美容師のお姉さんはハサミをパチパチ開いて閉じて話を続けた。
「専門学校の学費も高いし、資格を取って就職しても収入も休みも少ないし、独立資金も金融機関から借金しなきゃならないからねぇ」
「でも独立しちゃえばウハウハなんじゃないですか?」
「むりむり。今はカフェと見間違うほどおしゃれなお店が多いでしょ。とんでもない資金が必要だから、どこのサロンも火の車よ」
「厳しい世界ですね」
「お客さんも自分と同年代の美容師を指名したりするから、年齢と共に美容師に付いた固定客が自然と減っていくわけ。だから四十歳をすぎた美容師は需要がなくて悲惨よ」
なんとなく手に職をつけたら、あのババアとの生活から抜け出せるかもなんて考えた佐也加は落ち込んだ。
「こんな悲惨な話をするとシラケちゃわよね」
「ええ。まぁ」
「でもね。夫婦でお店が持てたら、それでいいの私」
美容師のお姉さんは隣の席でおばさんをカットしてる彼を見て笑った。
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