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【紅彼岸】
「……驚いた。お前、気にいられたぞ」
畳を撫ぜる風は屋敷を囲む竹林を通るせいかほのかに冷たく、早春の青い香りがする。
布団の上、痩せさらばえた男が手にしているのは、ひとふりの日本刀だ。
刃が障子越しの薄日に光る。
巻きなおされたばかりらしい錦の紐が、柄に美しい。
布団の脇にきちりと膝をついて男の言葉を聞いている有坂は、しかしその内容そのものが理解できない。
そのまま受け取ると、男の膝の上の刀に、自分が気に入られた、と、そう言われたようなのだが。
どのような顔をして応えたら良いかわからず、曖昧に笑むのみだ。
彼の主である姫君が、背後で、鼻で笑うのが聞こえた。
「お主、ほんに魔に好かれる体質よのぅ」
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