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男は、まだ、信じられない様子で、刀身をしげしげと眺めている。
「匂いに炎が触れている。私にもこれほど嬉しがったことはないくせに、どうしてお前のような官吏ふぜいに」
匂い、とは刀の刃近くの白く色づいた部分のことだろう。
しかし、官吏ふぜい、とは言ってくれる。
その官吏の組織に、助けてくれと泣きついてきたのはどこのどなた様だというのだろう?
しかし、彼は一介の従者だ。
怒ってみせるような立場でもない。
男の言うことを信じたわけではないが、
「私はそういうことにはまったく疎いようでございまして」
自分に霊感のないのを詫びるように頭をさげる。
それでもちらりと刀へ視線を流した。
……重い銀の鋼の面に、ゆったりと揺れる炎が見えた気がした。
いや、おそらくは刃の匂いの作る緩やかな波模様に光が反射したのだ。
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