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男が突然悲鳴をあげたので、彼はハッとして視線を彼の姫君から、男の方へ戻した。
遅い春の訪れを感じさせる陽光。
音が耳に戻ってくるような感覚があり、そこで初めて、自分が何かに魅入られかけていたのではないかと気づく。
布団の上に視線を返せば、男が刀を凝視して青ざめていた。
「な、何をした?『紅彼岸』が隠れた!」
言われれば、確かにその鋼は、先ほどまでとは違った様子だ。
ぬらぬらしたような先までの輝きを失って、どっしりとただ重い塊にしか見えない。
彼の姫君が、嘲るように顎を軽くあげた。
半眼伏せると、無言で、彼の後ろに座りなおす。
かなり腹立たしそうに、男が彼女の動きのすべてを、噛みつきそうな顔になって見ているのだが、どこ吹く風だ。
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