第9章  魔法

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 その地方では一番大きなホールで、客席の熱気とステージの上のマリア達メンバー五人のパワーが一つになっていく。  最後の曲を終え、力尽きたマリアが投げ下ろしたギターがフロアにぶつかって響く不気味な残響も、彼とMOONのライヴのスケールの大きさを裏打ちするものにしか過ぎない。  また元気いっぱいにステージ飛び出して行くアンコール。  客席を明るく照らして、満足げな表情の、あるいは終わるのがいやだと泣きわめくファンの姿を見ながらのエンディング…  そんな充実した時間を終えて戻るひとりぼっちのホテルの部屋で、マリアは由真との関係を見失い続ける。  それは、由真を失いたくないから、と何百回も思う。  しかし、いい手立ては何も考えつかない。  由真が妙なことを考えたらどうしよう、と考えつき、彼女の顔は見られないまでも、部屋にいるかどうかだけでも確認しようと思ったのは何日後のことだったか。  呼びだし音の後に、留守電のメッセージが流れる。発信音でやっとふんぎりがつき、マリアは話し始めた。 ―もしもし、由真、俺だけど。…会えないけど、帰れないけど… ―マリア? マリアなの? 
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