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しかし、とマリアは思った。由真が父の子なら、この母親にこんなに邪険にされるはずがないのではなかろうか、と。
彼女の憎悪が、何よりの証拠なのではなかろうかと。
マリアはもう探索を打ち切りたかった。
「俺が払うのは、父からあなたへの慰謝料、それだけですね? 」
女は目を輝かせてうなずいた。
「それを払えば、山田さんの誤解も解いてもらえますか?うちの社長にもまた一筆書いていただけますか? 」
由真の母は力強くうなずいた。マリアは金額を尋ねた。
すると彼女は、ここでは決められないから後から連絡すると言い、でもここで少しもらえないかともじもじしながら付け加えた。
マリアは早く彼女に立ち去ってもらいたく、札入れから十数枚の札を取り出すと、不躾ですが、と言って手渡した。
彼女が出て行くのを見送ると、マリアは電話もせずに、家に飛んで帰った。
電話をすれば、由真には家に入れてもらえないような気がしたからだ。
やつれた由真は、自分の姿を見て立ち尽くすばかりだった。
そんな由真を、マリアは抱き寄せ、口づけた。彼女の向こうに、これまで見たこともない乱雑に散らかった、空気の澱んだリビングが見えた…
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