第9章  魔法

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 ヒットのおかげで、MOONはテレビにもひっぱりだこだった。  マリアが嫌だったのは、たまに、父のことが話題に取り上げられることだった。 しかし、それでマリアは、父方の従兄、自分とそっくりだという伯母の忘れ形見に生まれて初めて会ったり、父のバンドの秘蔵のビデオをもらったりしていた。  アルバム「MOON」は年を越えても売れ続け、とうとう初の百万枚のヒットとなった。  それは、実はギルティーでもROSE以来の快挙だった。  マリア達メンバーの喜びようは並大抵のものではなかった。  ツアーの準備が進む中、ツアーのファイナルはいちおう名古屋でも、一年の締めくくりには東京ドームでやる必要があるだろうという声が上がり、スタッフが奔走した結果、十二月二十三日の公演が内定した。  マリア達がそれを聞いたのは、リハーサルスタジオで休憩に入ろうという時だった。  本当…と聞き返した途端、ひとりでに涙はこみあげ、あわてて後ろを向くと、ドラムセットに向かったままのタカネが下を向き、涙をこらえているのが目に入った。 マリアはギターを置きながら、こっそり目頭を拭った。 「アルバムを百万枚売ってみろ。東京ドームを満杯にしてみろ。」  そう言った時のZENNの声も表情も、マリアははっきりと覚えている。  しかし…今の彼がこれを知ったらどう思うのか、マリアは心配でたまらなかった。
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