第10章  華と月

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 ブツッ、と音を立てて切れる。  ZENNの頭の中が文字通りそんな状態を迎えたのは、マリアと出会った少し前だった。  曲がわいてこない。音が聞こえてこない。  やるべきことはおろか、やりたいことすらない。 がんじがらめにされているように、手が出ない。 認めたくないが、そのがんじがらめこそ、プレッシャーに他ならなかったのだ。 それまでのアルバム三枚を合わせた売り上げが六百万枚になろうとしていた頃だった。  そもそも、メジャー第一弾のアルバムが、ミリオンセラーになったことが間違いだった。 世間はこぞってROSEをもてはやした。 ロック界への挑戦者は一回戦で王者になってしまったのだった。 王者として君臨するための方法論など会得する暇もなかったし、考えたこともなかった。 それでも時代に選ばれたバンドだけのことはあったのだろう。 苦心して作った二枚目三枚目は勢いで売れた。 しかし、四枚目は…? と悩んでいた。
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