第10章  華と月

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 ハードスケジュールに乗るだけの毎日、ZENNをインスパイアしてくれるものなど、もう何もなかった。 地位、富、権力、名声、そんなものを二十代のうちにすべて手にしてしまった彼にとって、もともとロックの血が流れ、才能、ビジュアル、スケール、どれをとっても理想的なミュージシャンに成長していくマリアだけが刺激だった。  しかし、いつからかマリアの成長すらZENNには苦痛に変わっていった。  停滞している自分を、マリアは越えそうな勢いになってきたからである。  その一方で彼からは離れられない自分もいた。  自分の異変を気づかった仁に無理にすすめられ、しぶしぶ取った香港への休暇。実は将来の帝国のアジア展開のヒントにと、さる大物のパーティーに顔を出していた。 その義務さえ果たせば、マリアの初の武道館のために予定を繰り上げていた。 そんなことはマリアにも匂わせる程度で、ZENNは自分の気持ちをひた隠しに隠した。  何も知らないニッキーに抗議されたこともある。 「マリアみたいないい奴が誤解されるのも、社長とギルティーが誤解されるのも、俺達には我慢できません。何とかして下さい…」
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