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「お父さんと同じなんて…」
父の葬式でも泣かなかった気丈な母が泣くのを初めて見て、仁も途方に暮れていた。
仁は母を一足早く帰し、一人で兄の病室に戻った。疲れが出たのか、ベッドに横たわったままのZENNは、天井を見たままこう尋ねてきた。
「母さんは? 」
「大事なお客さんが来るからって帰ったよ。」
すると、
「仁、俺は、本当は、父さんと同じ病気なんじゃないのか? 」
仁は言葉に詰まったが、何とか、
「何言ってるんだよ。兄さんは父さんに体質が似てるから、ガンを作らないようにこの段階で完全に治そうって…」
「仁! 」
その絶叫に、仁はもう堪えられなかった。
「俺はあとどのくらい生きられるんだ? きちんと教えてくれ! 」
この様子では、コンサートの予定をキャンセルした時にバレる。
それどころか、かえって気にして病状を悪化させるだけだろうと仁は判断した。
「三ヵ月、って言われた。」
今度はZENNが黙り込んだ。
「でも、そんなのあてにならないと、俺も母さんも思ってる。だから、兄さんは思い込みが激しいけど、自分から病気にならないで医者の言うことをよく聞いて…」
「それなら俺は、このまま退院して、せめて、東京だけでもライヴがしたい。」
「兄さん! 」
「俺はどうせならステージで死にたい。延命治療で体力を落とすくらいなら、何もしないで、仕事を一本でも多くやりたい。ライヴが無理ならインタビューでも…」
途端にZENNの声は虚ろになっていった。取材なんてものは未来のある人間にしか許されないと気づいてしまったからである。
「フォトセッションでも…」
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