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次の日から母親は、面会時間を待ちかねるようにして早くから通ってくるようになった。
多忙な自分が通えば、息子が本当の病名に気づくのではないかという心配がもうなくなったからである。
「行ってもお兄ちゃんたら、寝てるのよ。あんたやお見舞いの方が来る午後になって初めて目を覚ます、って感じで…」
「これまでの疲れが出てるんじゃないの? 」
仁は何の気なしにそう答えたが、
「それだったらいいんだけど…お父さんも同じだったのよね。あの…夜、一人になると、いろいろ考えてしまって眠れない、って最後の頃、お父さんは言ってたわ…」
死に対する恐怖に兄は襲われているのか。どうしてやることもできず、仁は悲しくなった。
「あんたが解禁してから、お見舞いは本当に多いのよ。そういえば、イベントをキャンセルしたから、ガンだってみんなの噂になってるんですって? 」
「誰に聞いたの? 」
「遠山さんよ。でも、みんなお見舞いに来てくれる。移籍したミツグ君達までよ。それなのに…」
母の美しい顔がまた悲しそうにゆがんだ。
「あの、マリアとかいう子は来ないの。お兄ちゃんがあんなに目をかけてやっていたのに、ガンだとわかった途端…」
「そんなわけないよ。きっと忙しいんだよ。」
「他のメンバーはみんな来てるのに? 」
仁は思わず黙り込んだ。母のおしゃべりはまだ続いた。
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