第9章  魔法

3/20
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「MOONもとうとうミリオンセラーに東京ドームか…めでたいことだな。」  麗華がそうZENNにささやいたのは、ギルティー・ミュージックの重役の飲み会でのことだった。 近頃ではROSEのメンバー同士でも顔を合わせることはなく、肝心の麗華ともZENNが疎遠になりつつあるのを案じて仁が計画した席とは、当の二人も察している。 しかし、バンドが止まっているミュージシャンでもある二人には後に続く言葉はない。 困った麗華は、 「あとは…大きな声じゃ言えないけど、マリアもそろそろ結婚かな? 」 すると、驚いたことにZENNは凍り付いたように、麗華を見る。 「結婚、て…? 」 「ほら、あの、例の、デビュー前からずっと一緒に暮らしてる彼女だよ。やっとハタチになったって…」 ZENNは本当に何も知らない様子だった。が、突然やけのようにビールをあおると、押し黙った。そしてかすかに震えていた。 「何もそこまで怒らなくたって…」 だが、麗華もそこで言葉を失うほど彼の様子は変だった。 「悪いけど、今日は帰る。」  ZENNは立ち上がると、麗華も、出口のところにいた仁も振り切って店を飛び出した。  まさか…麗華は少したって気づいた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!