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お兄ちゃん、私に内緒の彼女とかいないのかしら? 仁は知らない? もし私に気がねしているなら遠慮はいらないから呼んであげて。お兄ちゃんにはそぐわない人でもこんな時なら仕方ないわね…そう言うなり、また母は大きな瞳を伏せて涙を流し始めた。
母の最後の言葉を気にしながら、その日も仁はZENNの病室へと向かった。
内緒の彼女…手紙の一件以来、兄はマリアと疎遠になっているようだった。様子がおかしくなったのはその頃だった。
兄の秘密の恋人は、実はマリアではないのか…
噂は本当だったのではないか…仁は自身の、この勝手な想像をどうしてか否定できなかった。
仁の顔を見ると、ZENNは待ち受けていたように、体力が落ちないうちに一日だけでもロケをしてビデオを作りたいと言い出した。
「いいけど、誰かと組んだ方がいいんじゃないか。そう…マリアとか。ほら、昔、雑誌の表紙とかやったじゃない? 」
ZENNはつらそうに目をそらした。
「マリアはきっと引き受けないよ。」
「兄さん…マリアと何があったの? 」
ZENNの表情のかたくなさには、仁もそれ以上尋ねることができなかった。
が、かえって仁は、マリアを呼ばなくてはいけない切実な理由をしぶしぶ自分の中で認めたのだった。
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