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「いつからだ、 京!」
真っ赤な顔で、首へと伸ばされる両手。
簡単に払ったのは、近藤先輩の手。
「お前に本命の彼女が出来て、京がうちのサークルに入ってから。だから、二股も浮気も無い。第一、そうだったとしても、稲田に文句が言えるのか?」
近藤先輩の正論に、「うるさい」と逆ギレする姿は、本当に意味が解らない。
「野村宏典(のむら ひろのり)の話しは?」
途端に顔色を変えた次利。
「あいつ、俺と田舎が同じで高校の後輩。相談されていたんだよな。まあ、俺は」
次利を見上げて黒く笑う。
「思い切り、反対させてもらったけどね」
会話の中身は解らない。ただ、推察だけは容易に出来た。
「最低」本当に、気持ちが悪くなる。
それでも、次利は必死に言い訳しようとするのだ。「野村とは何も無い!」と。
だが、近藤先輩の冷笑が、言い訳を無効にする。
「だって、最終段階に行く前に、京の従妹に手を出した事がバレたんだろ? 賭けの賞品って、半年間、学食奢られ放題だったんだってな」
もう次利の顔に色は無く。視線は地面に向けられるのみ。
人の心を弄ぶような行為は、ヘドが出る。
「稲田さー」
冷えきった空気の中、のほほんとした口調で喋ったのは、飛島で。
「今、吉野の従妹と付き合ってるって言っても、結局は吉野に許して貰うためだけな訳? お前自身、その彼女をどう思っているんだ?」
次利は顔を上げない。
心構えが出来ている質問には、平気で嘘をつけるのに、突発的な質問には弱いのは、昔から。
だから、俺はまた溜め息をつく。
「許したところで、俺達は友達にもなれない。…どちらにしても、茉莉を幸せに出来ないなら、別れろ。そして、二度と、俺と茉莉の前に現れるな。以上。これから先輩とおうちデートなんで、消えてくれ」
ひらひらと右手を振る。
「そうそう、デート。ま、そんな訳だ」
顔を上げない次利の前で、閉められた扉。
「はい、お疲れー」
小声の近藤先輩。「これで完全に縁が切れるといいな」
「いやあ、どうですかね。追い掛けられ慣れてると、追い掛ける側になった場合の引き際が解るのかなぁ、と」
「そうだなあ」
世間話を始めた二人に、俺はどこから聞いたら良いのだろう。
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