第二章

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「いつからだ、 京!」 真っ赤な顔で、首へと伸ばされる両手。 簡単に払ったのは、近藤先輩の手。 「お前に本命の彼女が出来て、京がうちのサークルに入ってから。だから、二股も浮気も無い。第一、そうだったとしても、稲田に文句が言えるのか?」 近藤先輩の正論に、「うるさい」と逆ギレする姿は、本当に意味が解らない。 「野村宏典(のむら ひろのり)の話しは?」 途端に顔色を変えた次利。 「あいつ、俺と田舎が同じで高校の後輩。相談されていたんだよな。まあ、俺は」 次利を見上げて黒く笑う。 「思い切り、反対させてもらったけどね」 会話の中身は解らない。ただ、推察だけは容易に出来た。 「最低」本当に、気持ちが悪くなる。 それでも、次利は必死に言い訳しようとするのだ。「野村とは何も無い!」と。 だが、近藤先輩の冷笑が、言い訳を無効にする。 「だって、最終段階に行く前に、京の従妹に手を出した事がバレたんだろ? 賭けの賞品って、半年間、学食奢られ放題だったんだってな」 もう次利の顔に色は無く。視線は地面に向けられるのみ。 人の心を弄ぶような行為は、ヘドが出る。 「稲田さー」 冷えきった空気の中、のほほんとした口調で喋ったのは、飛島で。 「今、吉野の従妹と付き合ってるって言っても、結局は吉野に許して貰うためだけな訳? お前自身、その彼女をどう思っているんだ?」 次利は顔を上げない。 心構えが出来ている質問には、平気で嘘をつけるのに、突発的な質問には弱いのは、昔から。 だから、俺はまた溜め息をつく。 「許したところで、俺達は友達にもなれない。…どちらにしても、茉莉を幸せに出来ないなら、別れろ。そして、二度と、俺と茉莉の前に現れるな。以上。これから先輩とおうちデートなんで、消えてくれ」 ひらひらと右手を振る。 「そうそう、デート。ま、そんな訳だ」 顔を上げない次利の前で、閉められた扉。 「はい、お疲れー」 小声の近藤先輩。「これで完全に縁が切れるといいな」 「いやあ、どうですかね。追い掛けられ慣れてると、追い掛ける側になった場合の引き際が解るのかなぁ、と」 「そうだなあ」 世間話を始めた二人に、俺はどこから聞いたら良いのだろう。
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