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「お願いします」  中腰になって、上半身を直角に折る。広い背中に、先輩が一発ずつ思い切り張り手を打ちおろした。ぱんっぱんっと板を割るような破裂音が響いて、後藤の背中は真っ赤になった。 「オス、どうもありがとうございます」  テルが囁(ささや)いた。 「タツオ、向こうは先輩がきて、絶対に負けられなくなった。絶体絶命だ。後藤はおまえに負けたら、とんでもないかわいがりが待ってる」  相撲界のかわいがりは、猛烈なしごきのことだった。それこそ血を吐(は)き、意識を失うような猛稽古(もうげいこ)である。タツオは血の気(け)が引く思いだった。それでなくとも体格差は圧倒的で、もし勝機があるとすれば、後藤が油断した場合だと考えていた。それが相撲部の先輩たちの登場で、そのわずかなチャンスさえなくなってしまった。ジョージの声は涼しかった。
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