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「タツオ、あっち」
ジョージの視線を追うと柔術場の入口に何人か1年生の姿が見える。その中央には長身の五王(ごおう)龍起(たつおき)がいた。タツオに気づくと、微笑しながら会釈(えしゃく)を寄越してくる。クニがちいさく叫んだ。
「クソッ、すべてあいつの差し金か。余裕かましやがって。おい、タツオ、相撲部と五王のぼんぼんに目にもの見せてやれ。おれはおまえに賭(か)けてるんだからな」
タツオは口のなかでつぶやくだけだった。
「……そんなこといわれても」
審判の3組生徒が静かに声を張った。
「つぎの予選は、後藤耕二郎対逆島(さかしま)断雄(たつお)。両者中央へ」
タツオはカーキ色のジャージの上下で、畳(たたみ)の海にすすみでた。足が震えている。後藤は羽織(はお)っていた浴衣(ゆかた)を脱いで、まわしひとつになった。腕の太さはタツオの太もものようで、胸と腹にはボーリングの球を仕こんだようだ。圧倒的な肉感と重みがある。
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