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唇を離された絵一は、
ゆっくりと真弓を見上げながら……途惑い……話す言葉は出てこないのだった。
(絵一……そんな眼ぇせんでょ。
絵一あたしね……あんたに秘密を持っちゃったょ……
婚約前じゃったから……許してじゃ)
▽(真弓の回想)
あの樅の木を後にした四純さんとあたしは、
四純さんの知人が経営してると言うレストランへと赴いたんだ。
『待ってましたよ、四純さん』
そこの知人さんに案内されて、あたし達二人は奥のテーブルに掛けたょ。
『さぁ、真弓さん……グラスを』
『はい』
あたしは、四純さんにワインを注いでもらい、グラスを合わせたんだ。
カチ~~ン
そうしてからあたし達は……、
軟らかなお肉を切って、口に運び……楽しい雰囲気だった……けんど、
途中から……四純さんのようすがぎこちなくなってきてね……。
あたしは、ワイングラスをそっと置いて、そんな四純さんを気づかったよ。
『どうされたがですか… …四純さん』
顔をあげる四純さんはね、どこか息苦しそうだった。
『……真弓さん』
『はい……』
四純さんは申し訳ありませんって、言いながら、
『先ほどから……どうもおかしいのです。
僕は……あなたに、自分の思いを伝えようとすると、
言葉が……何かに抑えつけられて……、
うまく喋れなくなってしまうのです……』
と、ネクタイを緩めながら苦しそうにそう言うの。
『……四純さん』
あたしはその言葉に、なぜか安心したような気持ちになって、
絵一との燻(くすぶ)りがまだ漂っている今、
できることなら……この席から遠ざかりたくなって来たんだがね。
『……真弓さん』
あたしはね、四純さんも自分と同じ心境じゃないのかと思ったんだ。
『四純さんは、まだ裕神さんのことが……』
四純さんは……静かにあたしを見つめていたんだけど、
『……真弓さん我が儘ばかりで……すみません。
……ここを出ませんか?』
って、俯き加減であたしにそう言うの……。
『あたしは構いませんけんど……』
あたしはそう言って優しく頷いて、
コートを手にすると、四純さんの後を静かに追って行ったよ。
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