7人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
職業は?と聞かれればなんと答えたら良いんだろうか。
俳優?それともアイドル?モデルってのもあながち間違ってはいない。
多様なジャンルに手を伸ばしているうちの事務所は、どうやら露出が増えるならば手法は選ばないタチらしい。
最初は舞台に出ていたはずが、いつの間にかドラマや雑誌の撮影がメインになり、さらには若手俳優で結成されたアイドルグループみたいなのにまで所属させられ、歌まで歌うようになった。
元々舞台に出ていたから歌やダンスはもちろん抵抗もないし好きだけど、直接お客さんと会える機会がめっきり減ってしまったのはちょっと悲しかったりする。
そして、何が嫌かって、これ。
いわゆるラブシーンってやつをドラマでやるのが本当に嫌だ。
「航也」
ベッドから起き上がってバスローブを羽織る。
スタッフさんに頭を下げてセットから降りれば、見知った顔がいつものように声をかけてきた。
「ケータリング来てるけど」
「いらねー」
「じゃあ楽屋に弁当あるから食えよ」
「ああ、さんきゅ」
ひらひらと手を振って背を向ければ、次は13:15からだぞ、と肩を叩かれた。
俺よりも背が高く、モデルのような風貌にきちっとしたスーツを着込んでいるこいつは俺の友人であり、マネージャーであり、良き理解者だ。
本当ならばあまりよろしくないんだろうけど、長い撮影、特にさっきみたいなシーンがある撮影のときはあまり人と関わりたくないという俺の思いをこいつはちゃんとくんでくれている。
気が散るし、共演者と一緒にいるのが何だか嫌なのだ。
その話をしてから、彼はケータリングの他に俺用に弁当を用意してくれるようになった。
「(携帯、携帯…)」
“ 坂上 航也 様 ”
そう書かれた部屋へ入れば、自然と肩の力は抜けた。
広くはないが、この場所は唯一撮影所の中でゆっくりと緊張の糸を解くことのできる場所だ。
最初のコメントを投稿しよう!