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「パイセンに彼氏ができない理由なんて簡単じゃないですかぁ」
取り出した香水を手首に少しつけた千奈美ちゃんがにっこりと笑う。
いい香りの香水だね、と私が珍しく褒めてあげたのに千奈美ちゃんはこれは香水じゃありませんアロマですときっぱりと言い放った。そして小さく鼻で笑った。
なんなんだろうこの理不尽さは。さっきこの子が私の眼球に直接香水を振り掛けるだなんだと言ったあとに取り出した小瓶を見て香水だと思った私の何が悪かったのか。
千奈美ちゃんは大きくため息をついた。
「……はぁ。」
『なによその態度。人がせっかく褒めてやったってのに鼻で笑うわ溜め息つくわ』
「そういうとこですよパイセンがモテない理由は」
『はい?』
「香水とアロマの違いもわからない。お風呂も入らず毎晩酔いつぶれるまで一人で晩酌」
『失礼ね。たまたま昨日はお風呂に入り損ねたってだけでいつもはちゃんと綺麗に、』
「ボサボサの寝癖がついたまま会社に出社するし化粧だってしてるかしてないかわかんない程度のお粗末なものだし」
『……。』
核心をついたことを言うとき千奈美ちゃんは口調が変わる。もしくは周囲に男性の影がなくなり私たちだけのときは先程の甘い声なんかじゃなく今のような饒舌な口調になる。
今回は後者か…と私が周囲を見回し近くに男性がいないことを確認しつつ、座っているデスクの引き出しの奥に入れておいた小さな鏡を取り出し自分の顔を見つめてみると、千奈美ちゃんの言った通りのボサボサ頭でお粗末な顔をした女がいた。
…おっふ。
「パイセンは女としての自覚がなさすぎですぅ」
そう言って再び甘い声に変えてパソコンのキーボードを軽快に叩く千奈美ちゃんの指の爪は、綺麗に形を整えられた淡いパールの入ったピンク色。
そして私はというと、長い爪じゃ仕事にならねぇと適当に切った短くて少し欠けた不揃いなものだ。
『これが圧倒的な女子力の差……!!』
「馬鹿なこと言ってないで真面目に仕事して下さぁい。部長に言い付けますよぉ」
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