第1章

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「俺も昔はあの女狐と仲良くしてた時期もあったけどさ、今は顔すら見たくねぇ」 その割には毎日総務部に来ては千奈美ちゃんと不毛な口喧嘩を繰り返してるようだけど。 あの子は口が悪くて態度も悪い。高津なんかが到底敵いっこない悪態の女王みたいな子なのに、性懲りもなく毎日やってきてはあの子と喧嘩ばかりして何をやってんだろうコイツは。 「お前も無理してアイツと仲良くする必要はねぇんだぞ?」 『別に無理してなんかないよ。千奈美ちゃんといると楽しいし、なんか千奈美ちゃんと一緒にいると自分の精神力が日に日に強くなっていってる気がするんだよね』 「そりゃあんなことされて毎日あの悪態までつかれてたら強くもなるだろーよ」 『きっと私が佐々木さんを好きになる前から千奈美ちゃんも佐々木さんのことが好きだったんだよ』 「あるわけねーだろそんなこと。アイツと佐々木が付き合う1週間前まで女狐は他の男と付き合ってたんだから」 『あぁ…そういえばそうだったね』 「わかんねぇなぁお前の深意が。俺だったらあんな女狐シカトしてやるけど」 『まぁ終わったことだしいいじゃないのさ。いつまでも引きずってたって仕方ないんだし』 「2年前の部署移動のときだって何でわざわざアイツと同じ総務部にしたんだ?そのまま商品開発部に残って自分の手で新商品を作るのが夢だっつってたろ?」 『ん~……まぁ総務部の経験者も必要かなぁなんて』 「だからってお前…、」 『あぁもうハイハイこの話しはお仕舞いお仕舞い。大体もう随分と前の話しなんだし私がいいって言ってるのに何で高津がそんな執念深く根にもってんのよ?』 「俺は別に…、 」 『佐々木さんが選んだのは私じゃなくて千奈美ちゃんだった…ただそれだけ。自分から告白もできなかった私がヘタレだっただけで、佐々木さんも千奈美ちゃんも悪くないよ』 「……。」 『千奈美ちゃんは口も態度も悪いけど根はいい子だってこと、高津も知ってるでしょ?』 「……。」 私の問い掛けに言葉を詰まらせたような顔をした高津は、いつの間にか運ばれていたビールのジョッキを勢いよく掴むと豪快に飲み干した。 いい飲みっぷりだ。 だけど絶対潰れてくれるなよ。面倒はみないからな。
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