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「ちょ、おい月解!?」
「なに」
「なに、じゃねぇだろ!? 俺どうすればいいんだよ!?」
暁の言葉に、少女はぱちぱちと目を瞬かせ。
「……さぁ」
「は?」
呆気ないほどあっさりといった。
「わたしだって、こんなこと前例がないのよ。どうすればいいのかなんて、こっちが知りたいくらいだわ」
額を押さえながら呟く彩羽が、悩ましげに辺りを見回す。そして。
「…仕方ない、か……」
ぽつりと零して、ふわりと浮かび上がり。
「―――無限の桜。その眼を、異の国へと届けよ」
紅と蒼の瞳が、ふっと瞼の下に隠された。
やがて、しばしの沈黙が降り。
「…そう」
鈴の声が聞こえたとき、彩羽の姿は暁の目の前にあって。
「わっ!?」
「動かないで。……わたしの目を見て」
「へ……?」
わけが分からないのに、その威圧に圧されて大人しく少女の瞳に目を留める。
「……そうね。たぶん、無理」
「え?」
疲れたように目頭に指を当てながら呟いた言葉に、反射的にそんな返事が出てしまった。
「しばらくは、この地にいなければいけないと思う。……とはいっても、不自由はさせないつもりだから安心して?」
「いやそういう問題じゃないからな!?」
言い返した直後に、ぐぅっと音がした。彩羽の目が少年の腹部に向けられる。
「………あ、いや。これはその…」
そういえば、確かここに引き込まれたのは学校帰りだった。それ以降何も腹に納めていないのだから、いい加減空腹感を覚えても無理はない。
少女の頬が、僅かに緩んだ。
「そうだった。なにか食べるものがないと、人は生きていけないんだったわね」
そういって苦笑した彩羽の言葉に引っ掛かりを覚えて、暁は問い返す。
「人は……?」
「待ってて。今用意するから」
そういって触れた桜の木から、桜花弁がひらりと舞い散った。それを手に取り、少女がなにかを囁く。
「これで食べられると思うけど。味を感じなかったらすぐに吐き出して」
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