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はい、と渡された花弁を睨みながら、それを彩羽に向けて。
「…食べれんの?」
「たぶん。少し食べてみて」
駄目だったらいって、といいながら自分は腕を組んで木にもたれる少女に不審げな視線を送りながらも、暁はいわれた通りに口に含む。
と、少年の表情が変わった。
「……おいしい」
「そう? よかった」
いいながら微笑む彩羽を見て、暁は不思議そうに少女の肢体を眺める。
「お前、普段なに食ってんの?」
「別になにも?」
「―――は?」
沈黙が降りた。
そんな暁を見て、少女は悠然と草木に手を伸ばしながら。
「わたしは、もう何年も前に永久(とこしえ)の儀を済ませたもの。それを済ませて以来、なにも食べたことはないわよ」
とこしえ、と呟いていた暁が、ふと目を剥いた。
「永久の儀ぃっ!?」
「……知ってたの?」
てっきり知らないかと思ってた、と呟く彩羽に、暁は苦々しく答える。
「ふざけんな。ファンタジー小説ばっかりを読み漁ってる俺を舐めんなよコラ」
「あら、そうだったの? …失敗だったわね」
ぽつりと呟いて顎に手を当てる少女の瞳が、僅かに光った。
「…いい加減、出てくれば? ―――十六夜(いざよい)」
彩羽の言葉に応じるように、長身の青年が姿を現す。
「ごめんごめん、俺も盗み聞きするつもりなんてなかったんだけどさ。出てくるタイミング逃しちゃって」
「まったく……そういえば、空木(うつぎ)は?」
「あぁ、彼女なら…」
直後。
ごぉっと風が巻き起こった。
「……やれやれ。どうする、姫? お客さまがいらっしゃったようだけど?」
「その姫っていうの、やめてっていってるわよね。……はぁ。今度は誰が来たんだか」
呆れたように呟きながら、少女が身を翻す。
そんな彼女の耳に、下卑た笑い声が届いた。
「…あぁ、いたいた。久しぶりだね、彩羽」
「……次の客人は、この人間?」
彩羽がついと視線をずらした先には、十六夜と呼ばれた青年と同じく長身の女性の姿。
「はい。……貴女さまのことを、ご存知のようですが」
「さぁ。記憶にないわね」
ばっさりと言い捨てた少女に対し、声の主―――中肉中背の男が決して穏やかとは言えない表情を浮かべた。
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