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「綾、殺すな。
使う所を見せるな。
囲みを突破することだけを考えろ」
龍樹は素早く視線を走らせると小さく囁いた。
今度の声は、掃除人達にさえ聞こえていないだろう。
龍樹が唇を開いたことにさえ気付いていないはずだ。
背中を合わせている綾だけが、体に伝わる振動で龍樹の言葉を捉える。
「スリーカウント。右のナイフ野郎を狙え」
綾がわずかに顎を引き、それとなくスカートに手を添える。
それを気配でとらえながら、龍樹は相手の動きを観察した。
野次馬を全く気にしていない掃除人達だが、やはりいるよりはいない方がいいと考えているのだろうか。
ギラつく瞳を龍樹達に据えた掃除人達は、いまだに動きを取ろうとはしない。
「三」
あるいは舐めきっているのだろうか。
丸腰のガキに取れる対抗策などありはしないと。
「二」
そう考えているのならば甘い。
確かに自分達は相手に比べればガキだろう。
「一」
だが場数が違う。
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