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文也は小さく溜め息をつくと、表情を消して言った。
「……ちゃんと、帰ってくるから」
「……だったら、持っていって」
その言葉と表情で、文也が引かないことに感付いたのだろう。
春日は視線だけで、サイドテーブルにある果物ナイフを示した。
「使わないよ」
同じように視線を落とし、文也は口元だけに笑みを浮かべた。
「それは『文也』が使うものであって『赤蓉(せきよう)』が使うものじゃないから」
そしておもむろに手を伸ばし、クシャッと春日の頭を撫でる。
「大丈夫。
だてに『血濡れの彼岸花』と呼ばれていたわけじゃないから」
その手の温もりに、春日はわずかに目元を緩める。
文也が手を退けると、春日は真っ直ぐに文也を見上げた。
「信じていますから」
「……うん」
その言葉にふわりと微笑み、首のチョーカーに指を添える。
春日は小さく微笑み返すと、文也のシャツから手を離した。
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