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「……本当に、春日に嘘は付けない」
廊下に出て、ドアをきっちり閉めてからぼやく。
軽い敗北感を覚えたが、別にそれは嫌な感覚ではない。
「嫌なのは……」
何気なく歩を進める。
特に警戒するそぶりも見せずに廊下を進み、自販機のある休憩所に入る。
平日の午前中ともあって、そこは閑散としていた。
「春日との幸せな時間を、あからさまな殺気で邪魔してくれる君達だよ」
その光景が一気に黒に染められる。
「……国家人口管理局『リコリス』直属掃除人、鈴見文也だな?」
文也を取り囲んだ掃除人の内、正面に立つ男が口を開く。
どうやらこの男がリーダー格らしい。
「そっちも掃除人だよね?」
文也を取り囲んだのは五人。
その全員が漆黒の衣装に身を包み、得物を手にしている。
掃除人同士の小競り合いは原則的に禁止されている。
彼らはその原則の中にいる人間のはずだ。
まだ『リコリス』を裏切っていない文也が、彼らに囲まれる理由はない。
それに、万が一その時が訪れたら、文也の前に立ちはだかるのは彼らではなく娘の幼馴染である彼になるはずだ。
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